集まる人々、高まる興奮
外人さんも多数参加。先日渋谷で買ったTシャツだそうで(写真提供:田中玲子)
七時五分前にトラファルガースクエアに到着して正直驚いた。既に五十人以上の人が集まっている。門田さんとテレビ局の小館さんに会う。
「警備員に聞いたら、本当はこの広場、集まるだけで歌はダメなんだけど、今日は特別に一曲だけならいいって。」
とお二人が言った。念のために、黄色い蛍光色のチョッキを着たウェストミンスター区の警備職員に挨拶と確認に行く。
「十八年ぶりに優勝した、日本の野球チームのファンの集まりなんです。私が代表です。よろしくお願いします。」
と伝える。一曲だけ、五分程度という約束で許可をもらえた。
「もし、今シーズン、プレミアリーグでチェルシーが優勝したら、きっとこんな風に皆集まって歌をうたうでしょうね。それと同じようなものですよ。」
と警備員に言う。そのとき、チェルシーの金に糸目をつけない補強が話題になっていたからだ。
警備員はまじめな顔で言った。
「チェルシーは優勝しない。優勝はアーセナルだ。」
誰も、そんな話してるんじゃないって。
次々と日本人の皆さんが到着し、気が付くと、群集は百五十人近くになっている。驚いたことに、ユニフォームやハッピ、マフラー、メガホン、ミニバット、のぼり等、応援グッズを準備している方が何と多いことか。会社の同僚や、同じ職場の戸畑さんの顔も見える。長井さんから、
「パブの方には連絡しておいたから。」
とお聞きするが、百五十人はどう考えてもひとつのパブでは収まらない。
七時十分、僕は集まった皆さんを前に、岡野応援団長とふたりで簡単な説明をした。
「阪神タイガース優勝、おめでとうございます。本日は、かくも多数お集まりいただき有難うございます。」
「一曲だけ、五分間ということで当局の許可が出ております。終わったら速やかに解散してください。盛り上がっていただいても結構ですが、くれぐれも英国の法律に触れるような行為は慎んでください。」
言葉を切る度に、若い連中がメガホンを叩いて「わーっ」と合いの手を入れる。アジ演説をしているような、変な気分である。
新聞社、通信社、テレビ局から次々とインタビューを受ける。どの記者からも「今の気持ちは」と聞かれるので、とりあえず「生きててよかった」と答えておく 道行く英国人からは、「何事ですか」と次々質問される。「日本の野球のサポーターです。」と答えておく。 そのうち、いよいよ「六甲おろし」合唱の時刻、七時半が近づいてきたのだった。